ハリハウの朝です、外はすっかり明るくなっています。時計を見ると朝食までにまだ時間がありました。
ベッドからはい出して窓の外をながめましたが、この部屋の窓からは湖は見えません。まず、窓を開けて冷たい空気を入れました。部屋の外にあるベンチへ行けば、湖とカンチェンジュンガが見えます。そこへ行くには ドアから出て、ロビーなどいくつも部屋を通り抜けていくのが正しいルートですが、私の部屋の窓から外へはい出せば ベンチはすぐそこです。この建物は傾斜地に建っているためなのでしょうか、窓は部屋の中からの高さは1mくらいのところにあるのに、ベンチのある外から見るとこの窓は砂利の地面からは10cmの高さもありません。この部屋は半分埋まっているようなものなのです。まだ、だれも起きてきてないようなので、ここから外へ出ても見つからないでしょう。ポットでお湯を沸かしコーヒーを用意して、カップをまず窓枠の外へ置き、書きかけのはがきと筆記具も外へ出しておきます。そして ごそごそと窓から外へ這い出しました。
コニストン湖に少し冷たい風が吹いています。まだ朝早いので、カンチェンジュンガの見えるベンチを一人じめできます。窓から持ち出したコーヒーを飲みながら、娘へのハガキをゆっくり書き上げました。
朝食は座席が決まっていました。テーブルに部屋番号で指定してあります。少しして 向かい側に ショーンコネリーみたいな白いあごひげのおじさんとそのおくさんが来られました。同じテーブルでの食事です。何か話さなくてはと少し緊張します。まず good morning. に始まり、最後は Have a nice day. まで無事に話せました。 英会話も少しは慣れたのでしょうか。
今日はヤマネコ島へいく大切な日です。ヤマネコ島はコニストン湖の南部にあり湖の東岸からはすぐそばにあります。岸からは近いのでサメ湾をボートで渡ればすぐなのですが、貸してもらえるボート屋さんがあるのは ずっと離れた湖の北西コニストンの町のところです。
朝食を食べ終わるとすぐ部屋に戻って出発の準備です。地図とカメラと筆記具などを小さなザックにつめて出かけました。ハリハウを出て まず北へ向かって歩きます、コニストン湖の北の端LakeHeadを通り、そこから南へ貸しボート屋さんのある港をめざします。
湖の北端では少し道から左へ外れて、ここから湖の岸辺に下りられます。ここで私はカモたちの歓迎を受けました。いつも私のザックには鳥さんたちのために残した朝食のパンが入れてあります。さあ、水鳥たちに朝食です。気に入ってくれるでしょうか。湖面にパンが投げられたとみると、はるか遠くからも水鳥たちが水面を走るように集まってきました。ここは3羽のカモがいばっていて、他のカモたちがくると追い払ってしまいました。パンを遠くへほおり投げてみんなに公平に食べてもらえるようにしました。
ここから港への道の途中に、左へ行けばボートセンターへと書かれたfootpathへの分かれ道がありました。これを行けば近道なのでしょうが、きょうの昼食を用意するためにも まず村の中心へ向かいました。ボートを長い時間漕ぐにはのどが渇くのと、今日の長い航海を考えると食料もぜひ持っていかなければなりません。コニストンの町で、食料品を扱っているちいさなお店で手に入れたのは パンとコーラ2リットル、バナナ3本。 これくらいしか食べるものは手に入りませんでした。
貸しボート屋さんの前にはすでに10人以上のひとが並んでいました。私も申し込みの列に並びましたが、もっと早くに来るべきでした。岸辺に置かれている手こぎボートを見ると、ボートの大きさにはいろいろあって、細くてひとりで漕ぎやすそうなのは少なく、どんどん他の人に借りて行かれます。 Lowing boat 4hour £15.00と壁の表示に書かれています。
ようやく私の順番がきました。「手こぎボートを貸してください」と係のおじさんに申し出ました。「どこまで行くのだ」と聞かれます。「peel島まで行きます」「そうか大変だな、JENNIEを使いなさい」と湖岸の砂地に並んでいるボートの1捜を指さしてもらえました。それから、ライフジャケットを受け取って、このときのために用意してきた皮手袋をはめて 10:25出航です。JENNIEと船尾に書かれた木製のニス色のきれいなボートです。古いボートですが大切に整備され、何度も塗り重ねられたニスの色がとてもきれいです。オールは支点が金具に差し込んであるので自由に外して動かせませんが、オールを失う心配はありません。初めはオール受けの金具をがちゃがちゃいわせて、右を漕いで つぎに左を漕いでとボートの動きを確かめながら 少しずつこぎ出しました。
岸を離れて漕ぎ始めると このボート JENNIEは航路が曲がりやすいことがわかりました、私の左右の手の力の差だけではなさそうです。いつも左へ曲がろうとします。ちょっと左右の力の入れ方を変えてまっすぐに進むように漕いでいきます。日射しが強いのは気になりません、湖は風がさわやかです。進んでいく後ろを振り返って見ると、目指すヤマネコ島はまだ遙か遠くにかすんでいます。片道2時間はこぎ続けるので疲れないようにゆっくり漕いでいきました。
岸に何カ所かあるコニストンランチの桟橋はいい目印になります、地図で自分の位置を調べるのですが、見えている桟橋から考えると まだなかなか進んではいないことがわかりました。はじめはヤマネコ島に向かって湖の中央を漕いでいました。でも 南からの向かい風がずっと吹いているので、進みが良くないのかもしれません。それで、この風を避けるために東岸の近くを進むことにしました。岸には避暑や水遊びの人がいます。やがて 水底が見えてきました、魚や水草はここには見えません。岸に近づいていくと水を透して湖底の小石も見えました。これは琵琶湖の夏の風景に似ています。ちょっと岸に近づきすぎてガリガリとボートの底を小石にこすってしまいました。あわてて岸から少し離れます。岸にいた人にも手を振ってもらいました。私も手を振って答えます。
ようやく、あこがれのヤマネコ島に近づいてきました。島のそば北側ではカヌーの講習会をやってます。思い描いていたより大きな島です。水ぎわはほとんど大きな岩に囲まれていています。島にはたくさん木が生えています。
島の北端から西回りに進んで、秘密の港をめざします。上陸するならぜったい ここからと決めてきました。ボートが秘密の港に近づいていくと、島から離れて大きな岩がいくつも湖から出ています。これは確かに夜間航海では灯台がないとぶつけてしまいそうです。岩を避け、ぐるっと大きく回って港に向けてまっすぐのコースをとりました。秘密の港へ入る水路の左側は斜めの岩壁です。ボートが入っていくには水路の幅は十分あります。すでに秘密の港にはカヌーが2隻入っていましたが、私のボートも入れる余地がありました。
12:10ついにヤマネコ島に上陸です。岸には もやい綱をつなぐところがないので、ボートを十分 砂地に引き上げておきます。島は思い描いていたよりも広く感じます。見上げるくらい大きな木もたくさん育っています。島をあちこち見て回りました。東のサメ湾側は岩が切り立っています。本では上陸地とされているところは見つけられません。キャンプ地は中央の少しくぼんだところでしょう、ここなら木に囲まれてテントを張るのにもちょうどいいところです。
北の見張り場として使えるところは挿し絵のようではありません。ここで親子で来ておられた人に写真の撮影をたのまれました。カメラを受け取って写した後に、私もお願いして探検隊の旗を持って写してもらいました。ちいさな男の子が私の旗を指して、自分で作ったの?と聞いてくれました。ヤマネコ島はまわりを岩に囲まれているので水辺に近づけるところを探しました。 でも 島であまりゆっくりしている時間は残っていません。秘密の港に戻ってボートをこぎ出しました。
秘密の港を出て左へ進路をとり 帰りは島の東側を回っていくことにします。こちら側は狭い水路のようです。ランサムの本ではサメ湾や屋形船湾のある側です。島の東側に上陸場を探しましたが 湖岸は大きな岩に囲まれていて 上陸できるところを見つけることができません。しかたなく島を離れていきます。"Have a nice day."と岸のひとから呼びかけられました。イエーイと答えて手を振ります。ヤマネコ島ともお別れです。
帰りは南からの追い風を捕まえるために湖の中央を進んで行きましょう。湖の南からコニストンランチがやってきて私のボート西側の離れたところを追い抜いていきます。コニストンランチのお客さんに手を振ってもらったので、私も大きく手を振りました。